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大阪高等裁判所 昭和31年(ラ)215号 決定

抗告人 事件本人 佐野富蔵(仮名)

相手方  事件申立人 西川桃子(仮名)

未成年者 西川高弘(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は末尾添付別紙抗告状記載のとおりである。

よつて按ずるに本件記録中の各戸籍謄本、登記簿抄本及び家事審判官の証人井上義夫並びに抗告人に対する各尋問調書の記載を綜合すると未成年者西川高弘は昭和二十一年四月○日大阪市○区○○町○○○番地西川定雄と養子縁組をなし同人が同年五月○○日死亡したのでその家督相続をなし同人所有の土地家屋その他の財産を承継取得したこと、相手方西川桃子は未成年者西川高弘の実母であつて抗告人は同年九月三十日同未成年者の後見人に就職したものであること抗告人は訴外○○○○株式会社の代表取締役村上光雄から同会社が他から融資を受けて業績があがれば抗告人に対しその経営する質屋営業の資金を融通するから同会社が他から融資を受けるにつき担保物を提供せられたい旨懇請せられてこれを承諾し自己の利益を図るため同未成年者の後見人として昭和二十九年二月二十六日擅に○○○○株式会社が訴外○○○○○株式会社との取引により同会社に対し将来負担すべき債権極度額を金五百万円とする債務の担保として同未成年者の重要な財産である大阪市○区○○町○○○番地宅地五百十六坪八合に第二順位の根抵当権を設定し翌二十七日その登記をなしたこと並びに右○○○○株式会社はその後営業不振のため昭和二十九年九月頃解散したが当時右根抵当権設定契約に基く取引により○○○○○株式会社に対し金二百二万円の債務を負担するに至つたところ○○○○株式会社には資産は全くなく右債務は残存しその支払不能の状態となつた事実が認められ右認定を左右するに足る証拠はない。してみるとたとえ抗告人においてその主張の如く未成年者西川高弘の後見人に就職後同人の所有不動産保全のため尽力するところがあつたとしても右の如く後見人として自己の利益を図るため擅に他人の債務の担保として被後見人の重要な不動産につき根抵当権を設定して登記をなしその抵当権の実行を受ける虞ある事態を招来した抗告人の行為は民法第八百四十五条に所謂不正な行為に該当するものというべきである。

よつて相手方西川桃子の後見人解任の申立を認容した原審判は相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し抗告費用につき民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山口友吉 裁判官 小野田常太郎 裁判官 小石寿夫)

(別紙)

抗告の原因

一、被抗告人の申立にかかる大阪家庭裁判所昭和三十一年(家)第三、二三七号後見人解任申立事件について、同裁判所は昭和三十一年八月十日抗告人に対して未成年者西川高弘の後見人たる事件本人佐野富蔵を解任する旨の審判をして昭和三十一年八月十七日抗告人へ其の通知があつた。

二、抗告人が、件外○○○○株式会社の代表取締役村上光雄の依頼に依つて「昭和二十九年二月二十六日未成年者所有名義の大阪市○区○○町○○○番地宅地五百十六坪八合」に前記会社の○○○○○株式会社に対する債権極度額を金五百万円とする根抵当権を設定し翌二十七日その登記手続を完了したものであること並に○○○○株式会社は其の後営業不振の為解散したが、解散当時○○○○○株式会社に対し金弐百弐万円の債務を負担し現に未解決のままになつて居ることは、事実であるが、右債務は近々の内に○○○○株式会社の代表取締役であつた前記村上光雄及水上滝夫両名に於て決済することとなつて居るものであり、万一右両名に於て決済しない場合は抗告人の責任において決済することに決定して居るので、未成年者所有名儀の前記不動産には何等損害を及ぼさず必らず解決するものである。

尚抗告人は寧ろ前記不動産を保全する為、財産税及相続税等の納税につき自己の固有財産を以て立替えを為す等あらゆる犠牲を払つて、過去十年間之を保存して来たものであつて、其の努力と功績を無視して単に一時的に根抵当権設定登記を為した一事のみを捉えて直ちに後見人解任の審判を為されたことは甚だ不当である。

仍て其の審判の取消を求めるためこの抗告をする次第である。

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